母乳育児のすすめ|赤ちゃんとお母さんへの恩恵を解説
赤ちゃんが生まれたとき、「この子に母乳をあげたい」と思うのは、お母さんとして自然な気持ちです。その温かい気持ちに応えるために、この記事では母乳育児が赤ちゃんとお母さん双方にもたらす豊かな恩恵を、科学的な根拠とともにやさしくお伝えします。
「母乳がうまく出るか不安…」「授乳の仕方がわからない…」そんな気持ちを持つお母さんに寄り添いながら、母乳育児の基本から実践のコツまでをご紹介します。

母乳育児とは?
母乳育児とは、お母さんの乳房から分泌される母乳を赤ちゃんに直接飲ませる授乳方法です。WHO(世界保健機関)とUNICEFは、生後6か月間は完全母乳育児(母乳のみ)を推奨し、その後は補完食を取り入れながら2歳以上まで母乳育児を継続することを勧めています※1。
日本でも厚生労働省が「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」の中で、母乳育児の推進を重要な施策として位置づけています※2。
赤ちゃんへの恩恵
① 免疫力を高める
母乳には、分泌型IgA(免疫グロブリンA)・ラクトフェリン・リゾチームなどの免疫成分が豊富に含まれています。特に産後数日間に分泌される初乳(しょにゅう)は免疫成分の濃度が非常に高く、「赤ちゃんへの最初の予防接種」とも呼ばれます。
母乳を飲んでいる赤ちゃんは、人工乳(ミルク)のみで育った赤ちゃんと比べて、以下のリスクが低下することが研究で示されています※3。
- 中耳炎・呼吸器感染症・消化器感染症のリスク低下
- 乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク低下
- 壊死性腸炎(特に低出生体重児)のリスク低下
- 小児期の肥満・2型糖尿病のリスク低下
- 将来の生活習慣病(高血圧・動脈硬化・メタボリックシンドローム)のリスク低下※3-2
② お母さんの免疫情報が伝わる
母乳には、お母さんがこれまでにかかってきた感染症やワクチンによって作られた抗体(免疫グロブリン)が含まれています。たとえばインフルエンザや風邪ウイルスなどへの抗体がそのまま母乳を通じて赤ちゃんに渡されるため、お母さんが生きてきた環境で出会ったウイルス・細菌への対抗力を赤ちゃんも受け取ることができます※3-3。
これは人工乳では再現できない、母乳だけが持つ特別な恩恵です。
③ 赤ちゃんが生まれた環境への適応を助ける
母乳の組成は一定ではなく、季節・地域・お母さんの食事・赤ちゃんの成長段階に応じて日々変化しています。赤ちゃんが今まさに暮らしている環境に合わせた免疫情報・栄養成分が届けられるため、その土地・その季節で生き抜くための力を自然に育むことができます※3-4。
また、授乳のたびに赤ちゃんの唾液がお母さんの乳首に触れることで、お母さんの体は赤ちゃんの健康状態を感知し、必要な免疫成分を調整して母乳に反映させるという仕組みも研究で示されています。
④ 歯・口腔機能の発達を促す
直接授乳(乳房から飲む)では、赤ちゃんは舌・顎・口周りの筋肉を使って積極的に母乳を引き出します。この動きが顎の骨格・口腔筋肉・嚥下(えんげ)機能の正常な発達を促します※3-5。
- 顎が適切に発達しやすく、歯並びへの良い影響が期待できる
- 舌の動かし方・嚥下パターンが離乳食・言語発達の土台になる
- 虫歯リスクについては「添い乳や夜間授乳は口腔ケアとセットで」が大切です
なお、虫歯リスクを心配される方もいらっしゃいますが、母乳そのものが直接虫歯を引き起こすわけではありません。口腔内の清潔を保つことで予防できます。
⑤ 消化吸収に優れている
母乳は赤ちゃんの消化器官に合わせた組成になっており、タンパク質・脂質・糖質のバランスが最適です。消化・吸収されやすいため、胃腸への負担が少なく、軟らかい便になりやすいのも母乳育児の特徴のひとつです。
⑥ 脳・神経の発達をサポート
母乳にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やアラキドン酸などの長鎖多価不飽和脂肪酸が含まれており、脳や神経の発達に重要な役割を果たします。また、ラクトース(乳糖)は腸内でビフィズス菌の増殖を促し、良好な腸内環境を整えます※4。
⑦ お母さんとの絆・愛着形成
授乳中、お母さんの体内ではオキシトシン(別名「愛情ホルモン」)が分泌されます。このホルモンは赤ちゃんへの愛着を深め、親子の絆を育みます。肌と肌が触れ合うスキンシップは、赤ちゃんの情緒の安定にも大きく貢献します。
お母さんへの恩恵
① 産後の子宮回復を助ける
授乳中に分泌されるオキシトシンは、子宮の収縮を促します。これにより産後の子宮がもとのサイズに戻りやすくなり、悪露(おろ)の排出も促進されます。早期の授乳開始は、産後出血のリスク低減にもつながります※5。
② 乳がん・卵巣がんリスクの低下
複数の疫学研究で、母乳育児の期間が長いほど乳がん・卵巣がんのリスクが低下することが示されています。Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer(2002年)の大規模研究では、授乳12か月ごとに乳がんリスクが約4.3%低下すると報告されています※6。
③ 体重管理・産後のからだの回復
授乳には1日あたり約500kcalのエネルギーが消費されます。産後に蓄積した体脂肪が使われやすくなるため、産後の体重管理に自然な形で貢献します(ただし個人差があります)。
④ 骨粗しょう症の予防
授乳中は一時的に骨密度が低下しますが、断乳後に回復・増加します。長期的には閉経後の骨粗しょう症リスクを低下させる効果があるとされています※7。
⑤ 産後うつのリスク低下
授乳時に分泌されるオキシトシンとプロラクチンには、ストレスを和らげリラックスをもたらす作用があります。いくつかの研究で、母乳育児を続けているお母さんは産後うつの発症リスクが低い傾向があることが示されています※8。
⑥ 経済的・利便的なメリット
母乳は調乳の必要がなく、外出先でも温度調整なしにすぐ授乳できます。ミルク代がかからないため、家計への負担も大きく軽減されます。
参考として、完全ミルク育児(人工乳のみ)にかかる費用を試算すると以下のとおりです(粉ミルク1缶800g・約2,500円の場合)。
| 月齢 | 月あたり消費量の目安 | 月あたり費用目安 |
|---|---|---|
| 0〜3か月 | 約5缶 | 約12,500円 |
| 4〜6か月 | 約4缶 | 約10,000円 |
| 7〜12か月 | 約3缶 | 約7,500円 |
哺乳瓶・消毒用品などの初期費用(約15,000円)も含めると、生後12か月までの完全ミルク育児にかかる費用は合計約127,500円(月平均約10,600円)が目安です。母乳育児ではこのコストがほぼかかりません。
※ ミルクの銘柄・消費量・お子さんの体格によって費用は変わります。あくまで目安としてご参考ください。
母乳育児を始めるためのポイント
早期授乳開始が大切
産後できるだけ早く(理想は1時間以内)授乳を始めることで、乳汁分泌を促すホルモン(プロラクチン)の分泌が活発になります。初乳を飲ませることで赤ちゃんの免疫力も高まります。
正しいポジショニングとラッチオン
授乳時の姿勢(ポジショニング)と赤ちゃんの口のくわえ方(ラッチオン)が正しくないと、乳首の痛みや赤ちゃんの飲み残しにつながります。助産師や母乳外来でのサポートを遠慮なく活用しましょう。
需要と供給のサイクルを大切に
母乳は赤ちゃんが飲む量に合わせて産生されます。頻回授乳(1〜3時間おき)が母乳の分泌量を増やす基本です。「飲んでもらうほど出るようになる」というサイクルを信じて続けることが大切です。
困ったときは一人で抱え込まない
「乳首が痛い」「赤ちゃんがうまく飲めない」「母乳が足りているか不安」──これらは多くのお母さんが経験する悩みです。助産師・母乳外来・地域の子育て支援センターなどに相談することをためらわないでください。
母乳育児が難しい場合について
母乳育児がベストとされる一方で、さまざまな事情から母乳育児が難しいケースもあります。
お母さんの健康状態・服薬などによっては、混合育児や完全ミルク育児が最善の選択になることもあります。
大切なのは「母乳かミルクか」よりも、お母さんと赤ちゃんの両方が健やかであることです。どうか自分を責めないでください。
授乳がうまくいかなかったり、痛みが辛い場合は早めに助産院にご相談ください。
まとめ
母乳育児は、赤ちゃんの免疫・消化・脳発達・愛着形成に大きく貢献し、お母さんの子宮回復・がんリスク低下・産後うつ予防など多くの恩恵をもたらします。
しかし最も大切なことは、お母さんが無理なく笑顔でいられること。困ったときはひとりで悩まず、助産師やサポート機関に相談してください。もあな助産院でも、母乳育児のご相談を受け付けています。
母乳・授乳のお悩みはもあな助産院へ
「おっぱいが張ってつらい」「母乳が足りているか不安」「授乳が痛い」など、ひとりで悩まないでください。もあな助産院では、赤ちゃんの吸い方にならったやさしい乳房ケア(BSケア)でサポートします。
参考文献
- World Health Organization (WHO) / UNICEF. Global Strategy for Infant and Young Child Feeding. 2003.
https://www.who.int/publications/i/item/9241562218 - 厚生労働省.「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」.
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf - Ip S, et al. Breastfeeding and Maternal and Infant Health Outcomes in Developed Countries. Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ). 2007.
https://archive.ahrq.gov/downloads/pub/evidence/pdf/brfout/brfout.pdf
(※3-2)Owen CG, et al. Effect of infant feeding on the risk of obesity across the life course: a quantitative review of published evidence. Pediatrics. 2005;115(5):1367-1377.
(※3-3)Hanson LA. Breastfeeding provides passive and likely long-lasting active immunity. Ann Allergy Asthma Immunol. 1998;81(6):523-537.
(※3-4)Hassiotou F, Geddes DT. Immune cell-mediated protection of the mammary gland and the infant during breastfeeding. Adv Nutr. 2015;6(3):267-275.
(※3-5)Victora CG, et al. Breastfeeding in the 21st century: epidemiology, mechanisms, and lifelong effect. Lancet. 2016;387(10017):475-490.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)01024-7/fulltext - Koletzko B, et al. The roles of long-chain polyunsaturated fatty acids in pregnancy, lactation and infancy. Eur J Nutr. 2001;40(1):1-11.
- American Academy of Pediatrics (AAP). Breastfeeding and the Use of Human Milk. Pediatrics. 2012;129(3):e827-e841.
https://publications.aap.org/pediatrics/article/129/3/e827/31785/ - Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Breast cancer and breastfeeding: collaborative reanalysis of individual data from 47 epidemiological studies in 30 countries. Lancet. 2002;360(9328):187-195.
- Melton LJ 3rd, et al. Influence of breastfeeding and other reproductive factors on bone mass later in life. Osteoporos Int. 1993;3(2):76-83.
- Kendall-Tackett K. A new paradigm for depression in new mothers: the central role of inflammation and how breastfeeding and anti-inflammatory treatments protect maternal mental health. Int Breastfeed J. 2007;2:6.
https://internationalbreastfeedingjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/1746-4358-2-6
