産後クライシス…夫婦の愛情が下がるのはなぜ?|宮崎・もあな助産院

「あんなに好きだったのに、今は顔を見るのもしんどい」
「この人と、これからやっていけるのかな」
「私たちの夫婦仲、こんなに悪くなってしまって大丈夫なんだろうか」

赤ちゃんが生まれてから、ご夫婦の関係に不安を感じていませんか。

この記事では、宮崎で助産院を開業している助産師が、「産後クライシス」と呼ばれるものについてお伝えします。まず、いちばん大事なことを先に。——それは、あなたたちだけに起きていることではありません。

🌿 この記事でわかること

  • 「産後クライシス」って、なに?
  • 多くのご夫婦に起きていること(調査データ)
  • どうして、そうなってしまうのか
  • パートナーに、知っておいてほしいこと
  • 乗り越えるために、できること

「産後クライシス」って、なに?

「産後クライシス」は、2012年にNHKの情報番組で紹介された言葉で、医学用語ではありません。意味は——出産後、ご夫婦がお互いへの愛情を急速に失っていくような状態のことです。

とくに、妻から夫への気持ちの落ち込みが大きいのが特徴だと言われています。「私が冷たくなったのかな」と感じているお母さんは、どうかここから読み進めてください。

「私たちだけ?」——いいえ、多くのご夫婦に起きています

ベネッセ次世代育成研究所が、約300組のご夫婦を4年間追いかけた調査があります。「配偶者といると、本当に愛していると実感する」という質問に「あてはまる」と答えた妻の割合は、こう変化しました。[1]

  • 妊娠期 …… 74.3%
  • 子どもが0歳 …… 45.5%
  • 1歳 …… 36.8%
  • 2歳 …… 34.0%

この数字を見て、不安になってしまったらごめんなさい。でも、私がお伝えしたいのは逆のことです。

これだけ多くのご夫婦が、同じ道を通っているということ。つまり——あなたたちの関係が特別に壊れているわけでも、あなたが冷たい妻になったわけでもありません。産後に、多くの夫婦が通る時期なんです。

そして、この数字は「必ずこうなる」という予言ではありません。あくまで平均的な傾向です。ご夫婦によって、まったくちがいます。

どうして、そうなってしまうの?

はっきりした原因が決まっているわけではありませんが、いくつかのことが重なって起きると言われています。

お母さんの体が、赤ちゃんに向いていく

産後のお母さんの体は、ホルモンの働きで赤ちゃんに没頭していくようにできています。心と体が、赤ちゃんのほうへ向いていく時期なんです。

だから、夫への気持ちが薄くなったように感じるのは——あなたの心が冷たくなったからではありません。

ただ、パートナーの方へ。「ホルモンのせいだから、仕方ない」で終わらせないでください。そこからが、大事なところです。

眠れない・休めない

細切れの睡眠、まだ回復途中の体。いつもより余裕がなくなる時期です。ささいなことに反応してしまうのは、当然のことです。(→ 産後の睡眠不足の記事

育児・家事の負担がかたよる

「気づいたら、全部私がやっている」——この感覚が積み重なると、気持ちは離れていきます。言い方の問題というより、自分だけが動いている状態そのものが、「なんで私ばっかり」という気持ちにつながっていきます。

お母さんが動きまわっているそばで、スマホを見ている時間があるのなら、その時間で何かひとつ動いてほしい。もあな助産院でも、よく聞く声です。

ふたりで話す時間が、なくなる

赤ちゃんが中心の生活になると、夫婦の会話は「連絡事項」だけになりがちです。気持ちを話す時間がないまま、すれ違いだけが積もっていきます。

「あとでやる」と「今やってほしい」のズレ

これが、いちばん多いすれ違いかもしれません。

「やるよ」と言ってくれる。でも、自分のやりたいことが先にあって、後回しになる。——お母さんのほうは、「今、やってほしい」んです。

赤ちゃんは待ってくれません。泣いている今、手が足りない今。それが30分後になると、もう意味が変わってしまいます。

「やらない」わけではないから、お母さんも強く言いにくい。でも、そのズレが積もっていきます。

それから、お母さんがひとりでバタバタ動いているときに、となりでご主人がスマホやゲームを見ている——これも、よく聞きます。

このときお母さんの心にあるのは、「気持ちが離れる」というより「何かやってほしい」といういらだちです。手が足りないのが目の前で見えているのに、動いてくれない。その一つひとつが、積もっていきます。

裏を返せば、それはまだ「一緒にやってほしい」と思っているということでもあります。

(お母さん自身の気持ちの揺れについては、産後のイライラ・ガルガル期の記事もどうぞ。)

パートナーに、知っておいてほしいこと

もし、この記事をパートナーの方が読んでくださっているなら——お伝えしたいことがあります。

パートナーの態度が変わったのは、あなたが嫌われたからではありません。体も心も、極限の状態で赤ちゃんを守っているところなんです。

  • 「手伝う」ではなく「一緒に育てる」——気持ちが変わると、動き方も変わります
  • 「やるよ」と言ったら、できるだけ「今」——あとでやるつもりでも、お母さんが必要としているのは「今」であることが多いんです
  • 奥さんがひとりで動いていたら、スマホを置いて声をかける——「何かできることある?」と聞く。または、自分で探してやってしまう
  • 正論で返さない——まず「疲れてるよね」と受け止める
  • ひとりで休める時間をつくる——ほんの30分でも、ずいぶん違います

この時期をどう過ごしたかは、これから先の何十年の家族の関係に、きっと効いてきます。(具体的な分担は、産後パパの役割分担の記事をどうぞ。)

上の子がいるご家庭では

赤ちゃんに加えて上の子のお世話もあると、ご夫婦の余裕はさらに少なくなります。上の子への気持ちについては、上の子にイライラしてしまうときの記事にまとめました。

赤ちゃんが来て、家族のかたちが変わりました。これは、家族をもう一度つくり直していく時期——いわば「家族の再構築」です。時間がかかって当たり前なんです。

乗り越えるために、できること

「今は非常時」と、ふたりで知っておく

産後は、ふつうの生活ではありません。家事も、夫婦の会話も、いつも通りにできないのが当たり前です。「今は非常時だから」と分かっているだけで、お互いを責めにくくなります。

「これをしてほしい」と、具体的に言ってみる

「言わなくてもわかってほしい」——そう思うのが自然です。でも正直なところ、察するのが苦手なご主人は多いです。

だから、具体的に言ってしまったほうが、ずれません。

  • 「抱っこして、あやしてほしい」
  • 「〇〇を買ってきてほしい」

「手伝って」だと、何をどうすればいいか分からずに動けないことがあります。やってほしいことを、そのまま言葉にする。

これは、あなたが折れたということではありません。ずれを減らすための、いちばん確実な方法です。

完璧を求めない

やり方がちがっても、赤ちゃんが安全なら大丈夫。指摘しすぎると、お互いに気持ちが折れてしまいます。

ふたりだけで抱えない

ご家族の力を借りる、産後ケアや自治体のサポートを使う。ふたりでがんばりすぎないことも、大事な選択です。

つらさが続くときは

気持ちの落ち込みが強い、涙が止まらない、眠れない——そんな状態が続くときは、がまんしないでください。地域の保健師さん、かかりつけの産婦人科、そして助産院など、身近な専門職にまず話してみてください。そこから、必要な相談先につないでもらうこともできます。

宮崎で、産後のことを話したいときに

もあな助産院では、産後ケアや育児相談を行っています。

おっぱいや育児のことだけでなく、ご夫婦のことも、よかったら聞かせてくださいね。ケアの日やイベントでお会いしたときに、少し話していただくだけでも大丈夫です。

ご予約:LINEまたはお電話で受け付けています。出張ケアもしています。

まとめ

  • 「産後クライシス」は2012年にNHKで紹介された言葉。医学用語ではありません
  • 調査では、妻の「愛していると実感する」割合が妊娠期74.3%から2歳で34.0%に。多くのご夫婦が通る道です
  • ホルモンの変化・眠れないこと・負担のかたより・会話の減少などが重なって起きると言われています
  • 気持ちが離れたように感じるのは、あなたが冷たくなったからではありません
  • 「今は非常時」とふたりで知っておく。すれ違いの正体は「あとでやる」と「今やってほしい」のズレかもしれません
  • お母さんは「これをしてほしい」と具体的に。ご主人は動いている奥さんに声をかける
  • 産後は「家族の再構築」の時期。ご夫婦だけで抱えず、家族みんなで乗り越えていきましょう

産後のご夫婦の関係は、変わって当たり前です。「壊れた」のではありません。赤ちゃんを迎えて、家族のかたちを作り直している——「家族の再構築」の時期なんです。

だからこそ、ご夫婦だけで抱えこまなくて大丈夫。上のお子さん、おじいちゃん・おばあちゃんも含めて、家族みんなで協力しあって、この時期を乗り越えていきましょう。


参考文献・補足

  • [1] ベネッセ教育総合研究所「『産後クライシス(危機)』で夫婦に何がおこる?!」(ベネッセ次世代育成研究所「妊娠出産子育て基本調査・縦断調査」より)
  • 「産後クライシス」は2012年にNHK総合テレビの情報番組で紹介された言葉で、医学用語ではありません
  • 本記事は、上記および一般的な医学情報を参考に、助産師としての臨床経験をもとに作成しています

投稿者プロフィール

松田ゆかり
もあな助産院(宮崎市)院長。2003年に助産師免許を取得し、20年以上にわたり地域のお母さんと赤ちゃんに寄り添ってきました。もあな助産院は2012年に開業。乳房ケア(BSケア)・産後ケア・クレニオセイクラルセラピーなどを通して、母子のケアを行っています。「お母さんと赤ちゃんが安心して妊娠・出産・産後を過ごせるように。そして、おふたりがもともと持っている力を、しっかり発揮できるように——そんなケアを心がけています。」