妊娠中・産後のための防災対策|赤ちゃんとお母さんを守る備えを助産師が解説
地震・台風・大雨——いつ起きるかわからない自然災害に、妊娠中のお母さんや産後の赤ちゃんはどう備えればいいのでしょうか。
「防災グッズを準備したいけど、赤ちゃんに何が必要かわからない」「妊娠中に避難が必要になったらどうすれば?」——もあな助産院でも、こんな声をよく聞きます。今回は、妊娠中・出産が近い方・産後のお母さんと赤ちゃんに向けて、助産師の立場から防災のポイントをお伝えします。
なぜ妊産婦・赤ちゃんには特別な備えが必要なの?
妊娠中・産後のお母さんと赤ちゃんは、一般的な避難者と比べて特別な配慮が必要です。
- 赤ちゃんは体温調節が未熟で、環境の変化に弱い
- 授乳・おむつ交換など、ケアに必要な物品が多い
- 産後のお母さんの体は、まだ回復途中であることが多い
- 妊娠中は突然の陣痛・破水が起きる可能性がある
- 災害時は医療機関へのアクセスが制限されることがある
だからこそ、普段から「少し余分に」備えておくことが大切です。
妊娠中の備え
必ず持ち出せる場所にまとめておくもの
以下をジップロックなどにまとめて、玄関や枕元に置いておきましょう。
- 母子健康手帳:妊娠週数・経過・血液型などが記録されており、避難先での診察に欠かせません
- 健康保険証・診察券:かかりつけ産院以外にかかる場合にも必要です
- お薬手帳:鉄剤・葉酸など服用中の薬の情報が伝わります
- 産院の連絡先(紙に書いたもの):スマホが使えない状況でも確認できるよう、メモを財布にも入れておきましょう
薬・医療情報の備え
- 妊娠週数・出産予定日・血液型(Rh因子も)・アレルギー情報をメモしておく
- 赤ちゃんの向き(頭位・骨盤位など)もメモしておくと、緊急時に役立ちます
避難場所・連絡方法の確認
- 自宅から最寄りの避難場所までの経路を、体の状態が変わっても歩ける道で確認しておく
- 福祉避難所(医療・介護が必要な方向けの避難所)の場所を調べておく
- 家族との連絡方法を複数決めておく(電話・SNS・災害用伝言ダイヤル「171」)
出産が近い方(妊娠後期)の備え
入院バッグは妊娠34〜36週頃から準備を
出産が近づいたら、入院バッグをあらかじめ準備しておきましょう。災害時は平常時より早く入院が必要になることもあります。
産院への連絡方法を複数確認しておく
- 電話が通じない場合の産院のSNS・ホームページの確認方法を調べておく
- 産院までの交通手段を複数考えておく(公共交通機関・タクシー・家族の車など)
- 緊急時の搬送先となる近くの総合病院も確認しておく
陣痛・破水時の対応を家族と共有しておく
「このような状況のときは産院に連絡する」「移動手段はこう手配する」など、具体的な手順を家族と話しておきましょう。災害時は冷静に動けないことも多いため、事前の共有がとても大切です。
産後のお母さんと赤ちゃんの備え

赤ちゃんに必要なもの(1週間分を目安に)
- おむつ:1日6〜10枚×7日分(新生児は多めに)
- おしりふき:水なしで使えるタイプが便利です
- 着替え:肌着・ロンパースを数枚
- 保温グッズ:薄手のブランケットや防寒着(赤ちゃんは体温調節が未熟です)
- 抱っこひも:避難時の移動に両手が使えて安全です
授乳中のお母さんの備え
- 液体ミルク:「ストレスで母乳が止まる」というのは俗説です。被災後も吸わせ続けることで母乳は継続できます。ただし授乳環境が整わない場合や、もともとミルクを使っている場合に備えて、液体ミルクをいくつかストックしておくと安心です
- 哺乳瓶・消毒グッズ:電気や水が使えない状況でも使える薬液消毒の方法を知っておきましょう
- 授乳ケープ:避難所でのプライバシー確保に欠かせません
- 手動搾乳器:授乳できない状況が続いたときのために
液体ミルクについて
2019年以降、日本でも液体ミルク(常温保存できる紙パック・缶タイプのミルク)が市販されるようになりました。開封するだけでそのまま飲ませられるため、水や消毒が難しい災害時にとても役立ちます。
また、カイロや直火で粉ミルクを温めるのは危険です。均一に温まらず、やけどのリスクがあります。温める場合は湯煎(お湯の入った容器に哺乳瓶をつけてゆっくり温める)で行いましょう。液体ミルクは温めなくても飲ませられます。
「ストレスで母乳が薄くなる」という話も聞きますが、これも正確ではありません。被災中でも、お母さんが食事をとって赤ちゃんを抱き続けることが、母乳を続けるいちばんの力になります(米国小児科学会・産婦人科学会2023年ガイドラインより)。
避難所での授乳・ケアのポイント
- 授乳スペースを確認する:多くの避難所には「授乳室」や「多目的室」があります。受付で「授乳できる場所を使いたい」と伝えてください
- 遠慮せず声を上げる:妊産婦・乳幼児は「要配慮者」として配慮を受けられます。スタッフに積極的に相談してください
- 休める環境を最優先に:産後のお母さんはとくに体が疲れやすい状態です。休める場所を確保することを優先してください
避難所に来ない妊産婦も多い
熊本地震の支援経験では、車中泊をしている妊産婦や自宅に留まる妊産婦が多く、避難所に来ないために支援が届きにくいことがわかっています。
車中泊が続く場合はエコノミークラス症候群のリスクもあるため、なるべく体を動かし、水分をこまめにとりましょう。
避難所での女性と子どもの安全
過去の災害では、避難所や仮設住宅での女性・子どもへの不当な行為が報告されています。身の安全と、授乳・着替えのプライバシーを守るためにできることを知っておきましょう。
- 更衣・授乳ができるカーテン付きスペースや個室の確保を、到着時に確認する
- 就寝場所は出入り口付近を避け、周囲に家族や知っている人がいる場所を選ぶ
- 困ったことや不安なことがあれば、避難所の女性スタッフや相談窓口に遠慮なく伝える
まとめ
- 母子健康手帳・保険証・産院連絡先は紙でも持ち出せる場所に
- 入院バッグは妊娠34〜36週から準備を
- 液体ミルクは普段から使い慣れておく。カイロで温めるのは危険
- 「ストレスで母乳が止まる」は俗説。吸わせ続けることが大切
- おむつ・抱っこひも・授乳ケープは避難グッズに必ず含める
- 近隣・保健センターに妊娠中・産後であることを事前に伝えておく
- 避難所では「要配慮者」として遠慮なく相談を。女性の安全も大切に
「備えておいてよかった」と思える日が来ないことがいちばんですが、もしものときのために、少しずつ準備を進めておきましょう。防災の備えや産後のケアについて、もあな助産院でもご相談をお受けしています。
参考になるリンク集
📖 もあな助産院からのおすすめ3選
- あかちゃんとママを守る防災ノート(内閣府):妊婦さん、産後のお母さん、乳幼児のいる家庭向けに作られた防災冊子です。避難時の準備や地域とのつながりについても掲載されています
- 乳幼児と保護者、妊産婦のための防災ハンドブック:妊産婦や乳幼児の災害時の備えや避難生活のポイントが分かりやすくまとめられています。助産師からの案内にも使いやすい資料です
- 政府広報オンライン「災害に事前に備える」:非常持ち出し袋や備蓄、母子健康手帳の保管など、家族全体の防災対策がまとめられています
📱 まず入れておきたいアプリ(すべて無料)
- 地震速報アプリ:「ゆれくるコール」「特務機関NERV防災」「Yahoo!防災速報」のどれかひとつを入れておきましょう。揺れる前に知らせてくれます
- ハザードマップポータルサイト(国土交通省):自宅の住所を入れると、洪水・土砂・津波のリスクが地図で確認できます。一度調べてみてください
📞 家族と連絡がとれない時
- 災害用伝言ダイヤル「171」:電話が混んでいて繋がらない時に使います。「171」に電話して音声メッセージを録音・再生できます。毎月1日・15日に体験利用できるので、家族で練習しておくと安心です
🍼 母乳育児中のお母さんへ
- NHK「災害時の授乳にまつわるウソ?ホント?」:「ストレスで母乳が止まる」など、被災時に広まりやすい誤情報をわかりやすく解説しています
